写真集出版レーベル シティラットプレス立ち上げの挨拶にかえて

 昨今の写真出版業界の状況は厳しい。優れた作品群を創る名の通った作家でも、写真集を出版する事は難しい。原因は幾つかあるが、そのひとつは端的にいって、書籍の売上が落ちている中、オフセット印刷による従来の大量印刷、大量販売を前提とした流通システムでは商売にならない、という事だからだ。そんな状況下であれば、幾ら優れた作品群であっても、敬遠されてしまう。若手の作家となればなおのことである。その悪循環が写真出版状況をさらに縮小させている。しかし、最近はオンデマンド印刷技術のクオリティの向上により、それら従来型の大量 販売システムとは異なる、大手出版社には出来ない少部数での発行が可能な状況が生まれつつある。また、インターネットの普及により、生産者と消費者を直截結ぶ販売環境も整ってきたし、様々なSNSの活用により、情報も拡がるようになってきた。そんな状況を受け、写真集の在り方を再構成することはできないだろうか、早い段階で若手作家の作品集を作ることができるのではないか。それが当レーベルの発端である。

 現在、一線で活躍する写真家も若かりし頃、私家版の写真集をつくり販売していた。荒木経帷の処女写真集、ー前略、もう我慢できませんーで始まる「センチメンタルな旅」、森山大道のシルクスクリーン手刷り表紙の「ANOTHER COUNTRY」「記録」など、例をあげればきりがないほどである。そして現在、そのどれもが極めて入手困難なコレクターズアイテムとなり、価格も高騰している。

 当レーベルでは「発行部数50部以内/重版無し」というルールを設けた。少なく感じるかもしれないが、無闇に将来的価値を上げる意図ではなく、持続可能性を考えた現実的な側面によってである。  当レーベルより出版する写真集は、コンペ受賞や個展開催をしてはいるものの、まだまだ名前の売れていない若い作家のものになるはずだ。だが、今後の活躍によってその写真集は、いつか新たに見いだされ、再評価される機会を持つだろう。私たちは私たちが出す写真集の未来にそんな期待と確信を持っている。そして、その写真集はカタログとしての役割も含んでいる。
 写真集の中に収められている作品は、全てそのオリジナルプリントを当レーベルのウェブサイトで購入する事ができる。写真集からオリジナルプリントへと繋がっていく一本の線。これが私達の考えるコンセプトでもあり、新しく提案する出版と鑑賞者と作家を結ぶ実験的なオルタナティブともなっている。

 丁寧に作家の想いを汲んで作られた本を、気軽に購入できる価格で発行する。好きな作家、或いは気になる作家の写真集を手にする純粋な喜びとともに、先行投資やコレクターとしての楽しみも込めて購入して頂ければ、それが若手作家の創作活力へと還元され、さらなる刺激的な仕事を生み出すはずである。

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