CITYRAT press PRESS特別企画『写真家は写真についての言葉について語らなくてはならない』
二人の若き写真家がメールでのやりとりを通じて写真について考え問い、少しづつ言語化していく──。
往復書簡第二弾、第四回『写真家はもっと自分の写真を責任を持って発表しなければならない』公開。

 

内倉真一郎さま

 本当にこうときめたらその一点に突き進むその覚悟がさすがだな、と感心するとともに、その迷いのない姿勢が力強い作品を生み出しているのだとも。
 それから新しいギャラリストとの出会い、キュレーターや詩人とのコラボレーションなど、今後はこれまでとは違った活動がみれそうで楽しみだ。

 さて、話は僕と内倉真一郎のコラボレーションともいえるPISについてだ。
 PIS(ピス)はPhotograph in the STREETの略称で、立ち小便というような意味でもある。なぜ僕らがこんなことを始めたのか──。
 始まりは2016年にCITYRAT press.主催で行われた瀬戸内での写真祭でのある出来事が端緒となって構想が膨らんだものだ。ひとつには、展示会場となるギャラリーとその展示作品で揉めたことが第一の契機となった。
 僕らは2016年の夏、高松の海岸沿いの、倉庫が改装され、さまざまなお店の立ち並ぶ場所で屋外展示することになっていて、そこに展示する作品プランを提出した。僕は渋谷で撮影したドブネズミで内倉くんは宮崎で撮影した猫を含むストリートスナップだった。
 その作品展示プランがあろうことか、NGとなった。二人ともだった。理由は多くの人の目になる場所には不向きであると判断されたからだった。ギャラリーを介して行う企画で僕の経験ではそんな検閲のようなことがあり、展示拒否されることが始めてだった。内倉くんも同様だったろうとおもう。そんなことがあるとは考えもせず、それぞれ展示の準備を進めていた。しかも展示間近になってそのような連絡があり、僕らは憤激し、その会場での展示をボイコットして、敷地近くで突っ返された展示プランで抗議の展示でもやろうと電話で話し合っておおいに盛り上がった。ふざけるんじゃないや、という感じだった。
 それでも幾らか冷静になり、別の展示プランを提出し、それでだめならいよいよ抗議の展示をやる腹積りだった。結局は第二案でなんとか収まり展示することで進んだ。それでもやはり僕らは突っ返された作品を展示する心をずっと持ち続けていた。
 そのような紆余曲折を辿ったその倉庫街での屋外展示が僕に新しい感覚を齎したのが二つ目の契機だった。屋外での僕らの作品は歩く人々の鑑賞の対象のみならず撮影の対象となったということだった。
 その出来事は僕にしても内倉くんにしても、屋外でのまるで写真に興味を持たない人々へのある意味での無差別なアプローチは予想もしない、新しい発見であり、新しい可能性をそこに見出したのでもあったはずだ。たまたまそこに居あわせた人々はそれぞれのやり方で、写真としての鑑賞物としてだけではなく、壁面を彩る奇妙な模様として、あるいはその前に立ち、自分たちの背景として撮影してみたり、風景の一部として僕らの眼の前で自由にそんな行為を楽しんでおこなっていた。そんな僕らの写真がまた新たな写真を生み出すその現場に感動を覚えたはずだ。僕はビビットにその新しい展示の広がりに興味を持った。ギャラリーの屋内ではこれまでにない状況が生まれたの感じた。それはそのままPISの基本コンセプトとなっている。
 よくは憶えていないけど、僕らはもうその夜には、その興奮とともにゲリラ展示という考えについて、話し合っていたようにおもう。それは7月のことだった。
 それから2ヶ月後、その幾らかの覚めぬ感動を携えたまま、同年の9月には突き返されたネズミと猫を、アメリカのアニメーションになぞらえて「トムとジェリー」*1として、渋谷の宮下公園の高架下にPISとして初めてのゲリラ展示を行った。たった10日前後でそれは、警察か鉄道管理者によって剥がされてしまったけど、数多くの道行く人々の目になっただろうし、インスタグラムにアップされたりして、大いにその目を楽しませたはずだ。そのほかにも「SECRET DELIVERY100」*2として100枚の写真を書籍に挟み込んだり、「SKULL&BABY」*3では、東京での屋外展示の他に、缶バッジを作って同時期に行われたそれぞれの個展会場で配ったりした。これからは屋外展示だけではなく、興味をもってくれるギャラリストやキュレーターと一緒に新しい展示様式を模索していけたら、と考えている。

 CITYRAT press.は2014年に立ち上げた写真専門のインディーズ出版レーベルだ。基本となるコンセプトは若手写真家による作品を、写真集が売れなくなって、大手出版社からの出版のハードルが極端に上がっている中で、少部数でもいいからなるべく早い時期に写真集化し形として残していこうというものだ。これはインターネットの普及にともなって消費者へ直接届けることができるようになったことや、オンデマンドなどの印刷技術の向上で比較的安価に写真集が作れるようになった状況が背景となっている。それらを踏まえ大手出版社にはできないスピード性とエッジの効いた作品が売りといっていい。
 今年で三年目を迎え、手応えも感じだしている。すぐに完売となるタイトルも出てきている。また予想外だったのは、海外からの購入依頼があることだ。あるタイトルについては、そのほとんどが海外、主にヨーロッパで売れた。そのほかにも、台湾でも数多くのタイトルを販売することができた。
 また、今年三月にリリースした土佐和史の写真集「SUNLIGHT MEMORIES」*4は、CITYRAT press.の中で最も制作費がかかり、そのため販売価格も高かったが、6月現在、もうそのほとんどが売れた。
 決して有名でなくとも、誠実に作られた写真集は売れる──。
 この結果を契機に今後CITYRAT press.の出版物は、ZINEに近かった体裁から本格的な作りの写真集へとシフトしつつ、積極的に海外のブックフェアにアプローチしていく計画だ。また、もうひとつ基本テーマに掲げている”写真集からオリジナルプリントへと繋がる一本の線”、これがまだまだ発展途上で今後の課題となっている。まだまだ、知名度も低いけど、写真を志す若い写真家のステップアップとなる、活動の受け皿となるようなレーベルとなれればと考えている。

 なんだか思い出話に終始してしまったけど瀬戸内での一連の出来事は僕にとって、今思えば、幾らか重要な契機となるものだった。
 腹の立つことも随分あったけど、得るものもあった。
 内倉くんは、瀬戸内の一件をどのように捉えていたか、また、これまでにいいことも、わるいことも含めて活動の契機となる出来事はあったのか。そのあたりのことを聞いてみたい。写真家として活動していればいろいろあるからさ、やっぱり。
 
 これが最後のやりとりになる。少し名残惜しいけど、この続きは酒を呑みながらってことで──。


2017年6月18日
横山隆平

 

 

PIS 1st EXHIBITION 「TOM & JERRY」渋谷 / 2016

PIS 2nd EXHIBITION 「SECRET DELIVERY 100」 / 2017

PIS 3rd EXHIBITION 「SKULL & BABY」渋谷 / 2017

横山隆平さま

 これが僕と横山さんの最後の往復書簡になりますね。横山さんとは、ほぼ毎日何かしらメールのやり取りをしているのですが、最後の往復書簡になるので何とも言えない気分です。そして僕はCITYRAT press.を辞めたメンバーなのに、こうして返信を下さること、とても感謝しています。第一回で横山さんが"時系列に沿って話していこうかとも思ったけど、そんなことはやめにして、"とありましたが、最終的にこの往復書簡の着地点は時系列で終えるような気がしています。今、僕の趣味が悪いとよく言われる書斎(作品制作レタッチの場)で、どのような言葉たちを巡らせ思い出と共に書き出すのか考えながら書いています。

 PISのスタートは、怒りから始まった瀬戸内の写真祭*5。横山さんと僕のやり取りで反瀬戸内国際写真祭、瀬戸内の海で巨大プリントにしたネコとネズミを空に飛ばし燃やす、その辺の田んぼにドーンと展示する、更には北浜アリーから見える場所でゲリラ展示してその場で燃やす。。。など、強烈で子供のような馬鹿な事を二人して本気で考えていたことを今も鮮明に覚えています。頭の良いオーナーが、頭の更に良いオーナーに頭が上がらない。同情したくなるような全く情けない一面と、様々な人間模様があの夏、明確に僕には見えました。名前は消してもらってもどちらでも構いませんが、ブックマルテ*6はやはり写真家または写真作品を取り扱う資格はありません。僕のことはどうでもいいのですが、僕の昔からの大切な写真家仲間でもある素晴らしい写真家をその企画に紹介し個展を開催する日程まで決まっていたのですが、直前になり展示が急遽できないなど、そんな恐ろしいことを平気で言ってくるのですから。あくまで向こうは上から目線のつもりかもしれませんが、ブックマルテには引き受けた責任もあったのです。ですので僕から言わせたら頭の良いフリをするのが得意な頭の悪いペテン師でしかありません。そしてそれは、お願をした運営側も同様です。今となっては懐かしい思い出。と、言いたいところなのですが良い思い出には結局なりませんでした。そのような人間に僕は一切、関わるつもりもなければもう既に眼中にもありません。

 ですが、PISがスタートしたのはこの瀬戸内が事実ですし、横山さんの言う通り、新たなる写真表現への挑戦に繋がったのは事実です。そう考えると良いキッカケにはなりました。ですが、PISはもうそのキッカケも忘れて、新たなる表現媒体でのPIS+に向かうべきだと僕は考えています。それは最も信頼出来る人情のある写真家と、同時に写真がしっかり的を得ている写真家達と共に1年に1回だけ変な事をする。そんな事を最近考え出しているところです。そこは横山さんとまたお話したいと思っています。

 元メンバーとしてCITYRAT press.は本当にいい方向に向かっていると外から見てそう思います。僕がスカウトした写真家ヨシダミナコ、安森信、土佐和史の3名。スカウトする時に、なんとのなく既に頭の中でもしかしたら僕はもう辞めどきかもしれない。そんな事を頭に入れながら3名の素晴らしい写真家の方々に出版をお願いして、活動をお願いしました。現在そのメンバーは不確定なところもあると思いますが、インディーズ写真集を貴重な限定部数で出版し、更に企画展等もしていく上でCITYRAT press.のメンバーの方々はとても活発的で、皆で一つの事をやり遂げる達成感なども含めとても素晴らしいですし、新たなる写真集の質、活動の方向性などとても楽しみです。今後、CITYRAT press.が、どんな手法で発表媒体を懸命に考えて活動していく事が嬉しくてたまりません。ですが、そこには「人」が必ずいます。その人が責任感を持って臨んでいき約束事をキチンとしていけば、もっともっと素晴らしいチームワークになりレーベルの知名度が広がっていく事は間違えないと辞めておきながらも僕はそのように思っています。

 81LAB.の素晴らしい写真家達との最高の思い出。CITYRAT press.はある意味で本来の僕に戻してくれました。それは、写真家は犬と同様、群れるものではなく、基本写真家に限らず芸術家は一人で作品を作り自身を見つめ、世界を見つめ、生命を見つめ、自身と戦い、そしてこれでもかってくらい磨きをかけて完成した作品を、先ずは自分一人でどのようにプレスリリースするか徹底して考え発表していく。たった一人で我が子のような作品を握りしめプレゼンに行くんです。その行為こそが独自性ではないのか。と、思っていてその独自性から人との出会いや、繋がりで新しい可能性、自身が開花していくのであれば、その独自性=作品を磨き、今まで以上に自分をみつめ、逃げることなく作品を撮り、発表の場を自分で作っていく。そこから沢山の素晴らしい出会いや、有難いオファーが生まれ発表の場となる母体が完成していく。最も、CITYRAT press.のメンバーにいた時も基本的に一人で活動するのがベースでしたが、今は完全に団体ではなく個人で写真と向き合っていきます。

 なので僕は2年前の自分に戻りました。腑抜けた作家にはなるつもりもないし、なったつもりもありません。余りにも濁り多いフワフワとした作家が馬鹿みたいに増えてきては一瞬で消えていき、政治家のようなコネ繰り回したゴマスリ写真(活動も含め)、頭突いてもゴンゴンではなくコンコンとしか音の出ない中身のない写真。言葉だけが達者で言葉と写真が的外れの写真。また自分のアプローチにしても若さゆえなのか気取ってしまい変にクールにしてしまう。例えば自分で自分のことを無名と言ったら楽なものです、既にそこで「傷つくのが怖すぎるので、どうか優しくしてください」と周りに言っているようなものですから。そのアプローチには覚悟も何も感じません。

 写真家はただひたすらに馬鹿であるべきで、写真家が写真家である以上、ましてや若手写真家と言われているのなら、写真の限界を知るための限界突破の突破口を見つけるための突破口を追求するべきだと思っています。多分それを追求するだけで、僕はその頃には田舎者の爺さんになっているのかもしれません。

 CITYRAT press.との活動は、もう一切ありませんが僕はPIS+にあったように何か今変なこと考えているんです。その時が来たら横山さん、お酒でも飲みながら僕の話を聞いてやってください。さて、僕は地方で相変わらずのやり方で写真家活動をしていきますが、今後のCITYRAT press.の更なる飛躍と更なる発展を心から願ってます。

"写真家はもっと写真についての言葉について語らなくてはならない"
その通りです。そして、
"写真家はもっと自分の写真を責任を持って発表しなければならない"

最も信頼する写真家 横山隆平氏に。
心から感謝を込めて。

 

2017年 6月19日
内倉真一郎

 

 


左 TOM & JERRY 右 犬の戦士団 / 2016より
内倉の書斎 / 2017より


注釈
*1 PIS 1st EXHIBITION 「TOM & JERRY」2016年に渋谷で行われたゲリラ展示
*2 PIS 2nd EXHIBITION 「SECRET DELIVERY 100」書籍に無差別に100枚の写真を挟み込むゲリラ展示
*3 PIS 3rd EXHIBITION 「SKULL & BABY」2017年渋谷で行われたゲリラ展示
*4 土佐和史写真集「SUNLIGHT MEMORIES」CITYRAT press.より2017年3月発行
*5 瀬戸内写真祭 2016年に瀬戸内海の周辺の会場を利用して行われた
*6 Book Marute 高松にあるギャラリー

横山隆平

横山隆平 Ryuhei Yokoyama

写真家。1979年大阪府生まれ。
モノクロフィルムによる都市写真を中心に作品を展開。Photography Magazine 81LAB.、CITYRAT press立ち上げに参加。主な作品集に「TOKYO,UNTITLED.」、「酔っぱらったピアノ弾きのようなやりかたでシャッターを押せ」等がある。2016年ゲリラ展示プロジェクトPIS(ピス)をスタート。

オフィシャルサイト
http://www.gumbuilding.com/photograph/

内倉 真一郎 Shinichiro Uchikura

写真家。1981年宮崎県生まれ。
主な個展・受賞歴に2010年、2011年、2013年Canon写真新世紀佳作を三回受賞、2016年コニカミノルタフォトプレミオ受賞&個展開催、2008年Nikon Juna21受賞&個展開催、清里フォトアートミュージアムYP作品パーマネントコレクション合計19点等がある。2016年写真家 横山隆平とゲリラ展示プロジェクトPIS(ピス)をスタート。

オフィシャルサイト
https://www.uchikurashinichiro.com

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